テクノロジーを哲学しよう

"If we ignore technology, we do not only ignore material artifacts: we ignore our world." [Coeckelbergh, 2019]

技術哲学とはなにか? 4.技術哲学史 経験的転回、倫理的転回と第三の転回

 

さて、技術哲学について英語版Wikiでは、技術哲学史が不十分だったので、次に、同じく気鋭の技術哲学者、オランダのフェルベーク(Verbeek)の「Moralization of Technology(邦訳:技術の道徳化)[Verbeek, 2011]」の最終章からハイデガー以降の技術哲学史をみていきます。

 

f:id:TNanasawa:20200825125402j:plain

技術の道徳化 [Verbeek, 2011]

技術哲学史まとめ(ハイデガー以降)(フェルベークまとめを更にまとめたもの)

  1. 1950年代- :悲観的技術決定論の時代
     ~第二次産業革命(電力・通信)~2つの世界大戦~原発~(巨大な装置としての技術の時代)
    この時代の技術哲学は、2つの戦争にテクノロジーが利用され世界で初めての規模の大殺戮が行われた後の反省的世相から、ハイデガーを中心とした悲観的な技術決定論が主流(他、エリュール、ヨナス等)。技術哲学の著作として著名な「技術への問い[Heidegger, 1953]」(おそらく唯一、哲学者なら誰もが知っている技術哲学書は、ハイデガーの「技術への問い」のみ)のトーンは、悲観的な技術決定論であり、現代技術は脅威で危険なものであり、それに人間は抵抗しても無駄であるというような悲観的な見方にあふれている(しかし、ハイデガーは、そこからの救いの道をテクネーでありアートに見出す点がポイント(追って取り上げる))。さらに、議論が超越論的で抽象的。したがって、具体的にこの技術の問題を乗り越えるための方策を考えるためには不十分でだったと技術哲学史においては位置づけられる。

  2. 1980年代-:経験的転回
    第三次産業革命(IT)~第二次AIブーム~インターネット~
    ハイデガー決定論の呪縛を超えるために行われたのがミッチャムやアイディによる「経験的転回」である。こうして技術哲学は、「現実の技術と密接に関係するようになる」。技術そのものへ視点を向けさせることになった(Technology(大文字のT)からtechnologies(小文字のtの複数形)へ)。科学哲学における経験的転回になぞらえて、技術哲学における「経験的転回」と呼ばれる。STSへの接近もこの頃。

  3. 2000年代-倫理的転回
    ~IT~バイオ~

    ナノ倫理・情報倫理・生命倫理・工学倫理等、実際の諸技術や技術発展を扱い始め、再び、社会的・政治的な関与を行い始めた。その結果、技術と社会を分離して論じるように成り、個別の倫理にとらわれ、STSへの接近によってしたかったこと(技術と社会の相互浸透性の研究)を忘却。倫理的考察の中心に道徳性と技術の相互浸透性を据えるべきで、経験的転回と倫理的転回に続けてもう一つの転回をしなければならないとフェルベークは言う。

  4. 2010年-第3の転回
    ~AI~ロボット/サイボーグ~IoT~
    それまでの「経験的転回」「倫理的転回」を統合するタイミング。技術と人の連合体としての行為者の概念を持ち出しポストヒューマニズム時代における新たな技術観を前提とした技術哲学を展開することで、より複雑な人と技術の関係性を表現し、AIやロボット、環境知能などの先端テクノロジーを論じる素地を作る。技術の道徳的意義の見直しも行う。

 

 技術哲学を勉強する中で、経験的転回~倫理的転回の流れは、欠かせないと感じています。この流れのおかげで、具体的に技術について論じることができるようになった。また、本当にめざましい技術革新に対応し、技術の実態を捉える技術哲学へと生まれかわった(ないしその可能性が生まれた)。

その結果、アイディ~フェルベークのポスト現象学と呼ばれる、「世界は技術を媒介して知覚される」 という考えに基づく考察が始まり、そうして、人間と技術は、切っても切り離せない、一体化したエージェントであるという媒介理論(mediation theory)にたどり着きます。これがフェルベークのいう第三の転回です。

 確かにこの流れのおかげで、現代の技術について論じることができます。とはいっても、まだまだこれだけの説明では、技術哲学がなんの役に立つのかわかりませんね。

具体的なテクノロジーについて技術哲学的に論じていきたいのですが、その前提となる道具立ての紹介ができておりませんので、次回からは、技術哲学の「道具立て」を紹介していきたいと思います。